いつまで経っても
「衛士長の護衛なんて誇らしいでしょう。」

そう言って見せるとグレオニーは苦い顔をする。

「レハトの活躍っぷりには、本当、俺の立場が無いよ。」

わざとらしく大袈裟に肩をすくめてみせて、そのあと力を抜いて、冗談だと笑う。
彼は、僕が成人してから、以前よりも明るくなったような気がする。
性格が変わったというわけではなくて、迷いが無くなったというか、吹っ切れたとまではいかないものの、去年の彼よりも清々しい面を感じることが多くなっていた。

それに対して僕は、暗い感情が腹奥にいつも溜まっていた。
声にも表情にもそれを出したことは無い。我ながら演技派だと思う。

「護衛は、信頼できる大切な友人のグレオニーだから、安心して頼める。」

「そう言ってもらえると俺も嬉しいよ。レハトのためならやりがいもあるし。」

本当は、好きな人にそばにいてほしいだけだった。

グレオニーが何を考えているのか理解できない。いいや、グレオニーの考えていることはわかっている。
彼は口から嘘を出せない質だから、彼の紡ぐ言葉はそのまま彼の思考を伝えてくれている。

グレオニーが僕の想いに応えてくれないことに、僕は理解を示せないのだ。
無言で目を見つめようと、そっと手を重ねようと、彼は僕に、友人以上の感情を持たない。

「衛士長とはいえ、実際の剣の腕よりも社交界での評価なんだ。」

「確かにそうかもなぁ。レハト、御前試合なんて出たの、一回だけだったっけ?」

ぎりぎりで競り勝った僕の対戦相手はグレオニーで、息の上がった僕は、素っ気なく立ち去る彼をただ見送っていた。
それから試合にはもう出ないことに決めた。

「だから、言いわけの利くように、なんてのはちょっとずるいけど、女性に分化していたりするんだよ。」

そんな理由は後付けで、グレオニーに少しでも、その対象として見てもらいたかったからだった。
諦めきれていない。女々しい。

「そういう意図があったのか? レハトの剣の腕は、衛士長でも何の問題も無いよ。ずっと見てきた俺が保証する。」

グレオニーが見てきた僕は、剣の腕が立つ子どもに過ぎないのだろうか。

欲しいだけの愛情を押し付けたって、相手から返ってくるわけもない。
わかっているのに、割り切れない。

この感情をグレオニーにぶつけてしまいたかった。
どうしてわかってくれないんだ、どうして振り向いてくれないんだ。
口から思わず零れてしまいそうになるそれを、飲み込み押し留める。

今以上の関係には、決してならない。
告げたらきっと、彼は遠くにいってしまう。
グレオニーが近くにいなくなってしまうのだけは、嫌だった。なんでも良いから、側にだけはいてほしかった。

理解をしてくれない彼に苛立ち、隣にいてくれる彼を愛おしく思い、彼がいなくなることに怯えていた。
ない交ぜの感情は、ぐるぐると僕の腹奥に居座る。

「本当に、衛士長就任おめでとう。」

「ありがとう。衛士長にはなったけれども、これからも……どうか宜しく。」

変わらずに、とは言えなかった。

「勿論。俺はレハトの親友なんだから、お前が城で頑張れるようにちゃんと側に居てやるよ。今までと変わらないように。」

屈託なく笑うグレオニーの顔に媚びも偽りも見当たらない。

吐きそうな言葉を、ごくりと飲み込んだ。