待っているんです
子ども時代最後の日、私の初恋はあっさり玉砕してしまった。

最後の日という大きな節目に、彼に私の心を伝え、彼からの答えを期待をしていた。
しかし、やはりと言おうか、彼の中での私の地位は気の置けない弟分の域を出ることはなかった。
がっかりである。

親友であるグレオニーに、この想いを告げるか告げまいか、ずっと悩んでいた。
考えている間にあの日を迎えてしまった私が、費やした時間を、彼は知るまい。

自分の思い切る覚悟が足りなかったとは思わなくもない。
しかし彼が鈍いのも悪いはずだ。

王となると決まり、彼とは到底会えないくらいに距離ができた。
にも関わらず、成人の儀では女性を選択する程度には諦めきれていない。

子どもの頃、彼と会うため訓練場へ通い詰めていた私は、未分化にしては大変に身体が鍛えられていた。
それ故、周囲からは男性へと分化するものだとばかり思われていたそうだ。
ヴァイルとの兼ね合いもあって、同じ年に成人した貴族人口の比率がなかなかに偏ったらしい。

社交場の裏からは、適当な憶測の混じったぐちぐちとした噂やら不満やらが漏れ聞こえてくるが、私の知ったことではない。
今のところ、彼らに王配を勝ち得る機会は全く無い。
勝手にしたまえ。

彼らを取り纏める立場となった今でも、貴族なる人種はあまり好ましく思えない。
初対面で何の他意もなく徴を見落とすという、寵愛者への不敬を働いてくれるようなうっかりさんでなくては、私の心を掴めないということを知って欲しい。

とはいえ一国の王となった今、分別も建て前も理解してしまっていて、仮にそんな振る舞いをする人物が居たとしても諸手を広げて歓迎できないものだが。

結局のところ何が言いたいのかというと、報告までといって寄越した手紙一通以来、ひとつの連絡も無い彼の筆無精っぷりに腹が立って仕方がないということだ。
以前彼宛ての手紙を拾って届けたときや、詩作の指導をしたときもそうだが、そもそも筆を執るという行為からはほど遠い人間のようだ。

催促の文をこちらから出してやりたいのだが、如何せん政務に追われて時間がない。
私は彼からの文に、寝る間も惜しんで返事を書いたというのに。
一年経っても、変わらず鈍いらしい。

私がこうして、かつかつと王座の間へと早歩きで移動している間にも、彼は剣を握っているに違いない。
そして衛士志望の子どもたちに、剣術の指南をして楽しんでいるのだ。
いつか私に教えた時のように、笑顔で張り切る彼が想像できるのがまた悔しい。

いいから早くその剣を羽根筆に持ち替えろ。
ああ、こっちは会いたくてしようがないくらいなのに!