自覚無自覚
子どもは図書室に持ってゆく道具を揃え、部屋を出た。
外には最近子どものお付きとなった背の高い衛士が居り、子どもの目線と同じ高さに屈み挨拶をした。

「おはようございます、今日も頑張りましょうね。」

衛士は子どもに会うことを楽しみにしており、それを体現するように表情を和らげた。
子どももまた、衛士に会うことを喜んでおり、同じように笑い返した。

ふと衛士はその子どもの変化に気付く。
それは些細な変化だったのだが、衛士は気付いたのと同時にそのことを口にした。

「今日は髪型少し違うんですね、よくお似合いですよ。」

言われた途端、子どもはみるみるうちに間に顔を赤くする。

どうしてわかったのかと子どもは衛士に問う。

先の子どもの様子に焦る衛士は、返す言葉を言いよどむ。

衛士は嘘が得意ではない。
世辞や取り繕いもうまく出てこない、王城で生きていくには少々素直すぎる人間だった。
故に、子どもの問いへと、胸の裡をそのまま差し出すこととなる。

「……あ、その、どうしてかって言ったら、なんか自然にわかったっていうか。俺にもわかりませんけど。俺、もしかして普段、レハト様のことよく見てるんですかね、はは。」

間を空けたうえに、自分でも妙なことを口走っていると、衛士も頬を朱色に染め出す。

廊下に、無言の子どもと衛士が居た。
ふたりとも視線を床に落としたまま、次の動きとならない。

子どもが胸に抱えていた荷物にぎゅうと力を込めたところで、衛士は子どもの護衛の迎えだったことを思い出した。

「あ!レハト様、遅れちゃいますから。い、行きましょう。」

衛士は紙束を受け取り、子どもを先に歩かせた。
隣に付き、存在を把握しながらも、見下ろせばまだあの表情をした子どもがいるかもしれないと思うと、衛士はなかなかそちらを向くことはできなかった。

小さな足の少しばかりの早歩きで、図書室の扉の前につく。
衛士は間に合ってつけただろうかと心配していた。
自分のせいで主人の勉強の迷惑になってはいけないと。

そしていつものように、道具を子どもに手渡す。
子どもは必ず衛士に礼を言うのだが、今日に限っては衛士を見上げ質問をした。

グレオニーはこの髪型が好きかと。

衛士は二度目の、子どもの常とは違う行動に面食らったが、好きかと問われれば衛士にとっては好ましいものだった。
あれこれ紡いでぼろを出したくなかった衛士は、一言単純に好きだと返す。

子どもは照れたように視線を逸らしたが、すぐに衛士に向き直るといつものようにありがとうと微笑んだ。
衛士はそれにようやく胸をなでおろし、いってらっしゃいませと見送った。

そして子どもが文官の机へ向かうのを確認する。
勉強が終わるまで待つために、衛士は図書室の壁側で待機の姿勢となる。

それから衛士は思案顔をする。
文官と向かい合って指導を受ける主人の、後ろ頭をまじまじと見つめたあと、何かを思い返しては首を振る。

考えても仕方がないと、衛士は小さく息を吐いたのだった。