左隣
目が覚めてすぐ、水を吸ったシャツが肌に張り付く気持ち悪さを感じる。首まですっぽり布団を覆っていたから随分汗をかいた。
重たい体で寝返りを打てば、向かいの寝台に腰かけた同室の友人から、おはようと声がかかる。
ぱちり、ぱちりと、未だ覚醒する気の薄いまばたきで空中を見つめる。
後頭部のほうから引きずり込むような感覚の眠気が襲ってくる。
ああ、でも、起きなきゃ。
また寝るにしたって、いま起きて着替えた方が絶対に楽なんだ。
羽毛越しにフェルツへさっきの返事をする。
鈍いくぐもった声だからか「まだ寝てたらどうだ?」なんて返ってきて、その通りにしてしまいたい。
一生懸命自分を奮い立たせて、のそりと寝台から身体を起こせば、寒い。
背中を寒気が走り抜ける。
腰から首の後ろにまでぞわりと鳥肌が立つ。気持ちの良いものじゃない。
思いもよらず一気に目が覚めたけど、早々に布団へと戻りたい。
「さっむ……」
「汗かいてたもんな」
細かく震えながら引き出しに手を掛け、ぐっしょりとしたシャツは投げ捨てた。
肌にまとわる空気が冷たい。
とにかく着替えよう。さっさと布団に潜ろう。
よく乾いた新しいシャツはふわりとして触り心地が良い。
すぐに頭から被ってしまったけれど、先にタオルで体拭けばよかった。でもいいや、もう。
脱ぎかけた下穿きを足に引っかけつつも換えて、そのまま寝台に倒れ込む。
身体を縮こめて、早く密閉された空気が温かくなるようにと願う。
くるまった毛布も少し湿っぽいけど。
入ったらすぐに人心地つけるように温められた、乾いた布団に潜りこみたかった。
「さむ……」
「上もう一枚着たらどうだ」
もう一度、立ち上がって服を引っ張り出してくる気力は持ち合わせていなかった。
枕元に、身に覚えのない水の張った少し深めの陶器と濡れたタオルが用意されていて、相変わらずこの友人には助けてもらってばっかりだ。
全身寒気がして、いま現在は熱があるのかどうかはいまいちわからない。
でも、ひどく汗をかいていたから、多分しばらくは世話になったんだと思う。
「悪い……」
「気にするなよ、空き時間にだけだから」
やっぱり申し訳が立たない。空き時間を潰してるのもそうだし、朝も迷惑かけたわけだし。
職場に出たらハイラにボタンの掛け違いを指摘された。
早朝の分の巡回を終わらせたフェルツに、調子がおかしいからと無理やり引き渡されても尚、問題はないと自分では思っていて。
押し込まれるように薬を流して、理不尽が解消されないまま寝台に潜りこませられて、ようやく気付いたのが昼前に少しだけ目が覚めた時。
無理してた、なんて意識はないんだけど、結局こう倒れてしまったらなんとも。
「あー、今日の当番とか、どうなった?」
「あとで教えてやるから、今は静かにしてろ」
苦笑まじりに返されて、結局大人しくしていることにした。
たぶん誰かしかが交代してくれたんだろう。そんなに大きな仕事はなくって、見回りだけだったし。
目蓋を落として、うとうとと昨日を思い返す。
昼から会議、そのあと巡回、あとは補修の手伝いにあちこち回ってた。
基本的に丈夫な身体をしているから、こうやって倒れるなんて滅多になかったけど。いままでは、倒れるまで無理をしたことがなかったっていうのもあるかもしれない。もっと気を付けなくちゃいけないよなあ。
宿舎からだいぶ離れた神殿のほうから、定刻を知らせる鐘の音がする。
もう夕方なのか。そんなに寝てたんだな……。
「腹、減ってたりしないか?」
「……」
「グレオニー?」
「……」
「……あんま無理すんなよ」