儀官、広間にて
自分より幼くしかもこの城に来てからたったニ年の友人は、あれよあれよと言う間に立派な貴族作法を身に付けた。
目の前で優雅に茶を嗜む姿に、口調こそ砕けているものの、自分とは違う世界の住人のようでどうにも気後れしてしまう。

それを零せばレハトは眉を顰める。

「グレオニーが違う世界だと感じるように、自分も貴人たちと同じ種だという提示なだけであって、そもそもの人間としては全く貴族なぞ理解できないのだ」
と。

そうは言っても、てんで素人の自分から見ても完成された美しい振る舞いを披露されては萎縮しないわけにもいかない。
ほんの一年前とはあまりにも違う。
籠りを明けて顔かたちも整った彼は、生まれてからの家柄のある人間のように思える。

言えばレハトはがちゃがちゃと陶器を鳴らして、受け皿ごとカップを寄せる。
椅子もわざと音を立てて引いて、深く腰掛け直す。

「別にこうしてぞんざいにものを扱うこともできるのだ、儀官が無作法をしていると指をさされては評判に影響が出るからやらないだけで」
とぶっきらぼうに言う。

自分はその言葉に慌てて仕草を戻すように言うが、レハトはふくれっ面をして両頬に肘をつく。ああそれも行儀が悪い。

茶請けを雑にひょいひょいと三つ、四つ口に入れては膨らませた頬の中で砕いている。
広間で目立ってしまうのではないかと焦るこちらをよそに、結構な大きさの欠片のまま飲み込んだ気がする。
すぐに次のお菓子へ手を出そうとするのをさすがに止めた。

不機嫌そうな顔で
「自分は貴族様なのであれこれ指図される謂われはない」
と言う。

睨みつけてくる視線には、……威厳が特にない。
似合わない、まるで様になっていない。
むしろ子供が駄々をこねているだけだ。

そこでようやく、やっぱり彼は自分のよく知る、小さな、弟のようなレハトだと気づく。

大人になった彼が、自分の知らない人間になったようで、不安だったのかもしれない。
今の瞬間のレハトを見れば、そんなことはとても無かったと、知ることができたのだが。

そう思えば、自然に笑みが転がり出る。

あとは簡単で、笑いながらあやすように謝罪を述べれば、レハトの表情も緩む。
前にのり出していた頭を少しだけ触ると、一瞬驚いた顔をして、また嬉しそうにする。
彼は子供扱いされることを嫌がらない。

それからレハトは崩しすぎていた姿勢を多少直し、
「礼法も剣技とあまり変わらないのだ」
と述べる。
彼曰く、礼法とは、決まった型を相手と場所に応じて行うだけのものらしい。
「グレオニーだって、演舞で相手が踏み込んできたのに大きく後ずさりすることはないだろう?」
と。

確かに演舞では無いのだろうけど、試合のときはもっと臨機応変が求められる。
と言いかけ、飲み込む。

レハトは武勇に向いていない質だ。
本人の憧れは強いようだが。
自分を羨ましいと零すこともよくあった。

グレオニーのようになりたいと言われたときは嬉しかったものだ。

だからかもしれない、今礼法と剣技をこうして繋げて話すのは。
もしかしたら、自分との共通の部分を見つけたいのかもしれない。
そう思うと、この小さな儀官が、なんだかかわいらしく見えた。

レハトの話に頷き、肯定すると、満足げに笑顔を見せる。

「つまりは自分たちは根っこが同じ人間なのだ。貴族然としているのはこの城での生きていき方なのだ。だから――」

そう言ってこちらの手をとり
「兄として友人として変わらずに居て欲しい」
と言う。
自分はなんとも素敵な弟であるこの友人に、もちろんだと返したのだった。