丸ごと
レハト様はまだ文字の読み書きを完全には習得していらっしゃらない。なのでレハト様宛ての手紙は全て俺が読んでいる。
ときどき口説きにかかっている文もあるのが困りものだ。必要ないので、レハト様には見せないうちに廃棄だけど。
そういう文は贈り物が一緒に届くことが多いのでそれも廃棄。

選別しているところを見つかると、捨てるのは勿体ないと言われてしまう。
俺の袖を掴んで、眉を寄せる上目づかいに思わず、肯定に頷いてしまいそうになる。でも駄目です。

最近そういうような手紙や贈り物の頻度も増えてきた気がする。
レハト様は本当にお綺麗だから、想いを寄せる人間が多いのかもしれないのだけど、それにしても、俺が居るのに不甲斐ない。

処分品の山の中から、レハト様はひとつ適当な手紙を取り出す。
どこかの貴族からで、何の返事も出していないのに何度も届く名だ。
レハト様はそれをかさかさと開けて、いくらか紙と睨み合いをして、さっぱりだと言って額に手をやった。文字を読むと頭痛がするらしい。

なんて書いてあるの?と指をさされて、手元を覗けば、手本のような読みやすい文字が見えた。
レハト様のお美しさを賛辞する言葉がつらつら並ぶ予想通りの内容に、こっちまで頭が痛くなりそうだ。
本当はそんなのあんまりお聞かせしたくないんだけど……。俺の返事待ちに、じっとこっちを見ているので、紙面の表現をやわらかくしてお伝えする。
そうしたら、レハト様は少し考えたお顔をしたあと、それはグレオニーからの手紙?と問われる。

……えーと、違いますが。
そう答えれば、だってグレオニーが普段言うこととあまり変わらないよ、と。

確かに、確かにその手紙の中身はわからなくもない。
表現が仰々しくて大袈裟なだけで、たぶん俺が普段言ってるのと変わらない。レハト様がそう思うのも、まあ、無きにしも……。

いや、でも違うんですよ。俺からの文じゃないってこともですけれど。
こういう手紙の一文と俺のレハト様への想いの丈は同じじゃないってこと、わかっておいて欲しいんです。俺のほうが絶対にレハト様のことをよく見ているし、よく知っているんです。その、お慕い、……愛しています、し。

個人的には相当の勇気をもっての発言になった。そのままの感情を口に出すっていうのは、やっぱり緊張する。耳まで熱い。
そういう俺に対してレハト様は、知ってるよなんて言って、本当に、なんでもないような感じで俺の首の後ろへ手を回す。

グレオニーに好きって、そう言って貰えるのが一番嬉しいよ。
とのことで。細まる目も緩む口元も、目の前、真正面でのレハト様はそれはもう、お綺麗で……、耐え、耐えられない、かも……。

……でも結局、今のは俺からの手紙じゃないってことわかってます?