淡い
部屋付きの侍従が、衛士の処刑が終了したことを私に告げた。

なんだか、呆気なく死んでしまった。あまり実感が無い。
最後に見たのが、生きて口答えする様だったからかもしれない。
あれほど憎らしく想っていたのに、いざ全てのことが終わっても、すっきりとした気持ちにはならなかった。

成人してもこの場所へ留まっている事を決めた私は、子供時代よりも忙しく、様々な物事を頭に詰め込んでいた。
少しの時間も惜しくて、首の落とされるその瞬間には立ち会わなかったのだけど、見ておけばよかっただろうか。
そうしたら、自分で手を下したかのような優越感にでも、浸れただろうか。

彼を上手に排除するため、敗北する手筈を整えた。屈辱よりも、その先にあるあの男の苦痛を望んでいた。
私はあの男に熱心に執着するものを持っていたはずだった。
それなのに、蓋を開けてみればどうだ。私も篭りの間に、同じように頭を冷やせてしまったのか。

いつからだろう。格子越しの会話の時にはまだ、彼の声に、煮えくり返るような思いをしていたはずだ。

今は、激しく揺さぶられるものも無い。強く痛むものも無い。
あの傷だって、じっと目を凝らして存在を確認しない限りわからない。幸か不幸か、分化時期のせいだ。このまま同化して全く無かったものになると思う。
憎悪していたような気がする。ひと月ほど前の感情なのにあやふやだ。
死人にいくら想いを馳せても、もやもやと霧のかかる意識は、明確な感情を出してこない。

ああ、どうでもよくなった、のか。
考えても、無駄か。
もう山へと登った人間への感情に意味など無いらしい。

そういえば一年近くをこちらで過ごして、母親のことも、もうよく思い出せなくなった。
だから、このわだかまりも、彼に対していた敵意も、いずれ、何もかも忘れてしまうのだろう。
おそらく、死ぬとはそういうことなのだ。

時間の中にいずれ全部埋もれていく。
十四年の肉親が一年で良かったのだ。一年未満の他人が薄れるのは、もっと短い。
ゆっくりと手元の本に視線を落とし、次の予定を追うこととした。