突然だった。
自分のことを蔑み軽蔑していた、あの寵愛者の態度が一変した。

最後の試合で彼を、目の前から消そうとした。
神の寵愛を授かった彼が嫉ましく、憎かった。

彼と会った最後の日、彼の自分を見る眼差しは恐ろしく穏やかなものだった。
優しく柔らかで、まるで愛おしい人にでも向けるような。
おおよそ殺されかけた相手に向けるものではない。

二人きりになり、自分はあの時の殺意を告白した。
彼はそれを、知っていたと言った。

それは彼も同じだったと。

はじめて意見の一致が見られた。
この一年、彼にはことごとく自分を否定されてきたものだから。

そのときの彼の顔を自分はよく覚えている。
目を閉じ、少しだけ悩むように眉を寄せ、唇は薄く微笑んでいた。
見たことの無い顔だった。

彼はそのあと、すぐそれを翻す。

しかし、愛してしまった、と。

彼は左肩にある深い傷を、本当に愛おしいものだというように撫で、告げた。

それも見ても自分は、安堵も恐怖も無かった。
自分には理解しかねるものだった。
なんとなく、これが寵愛者なんだろうとは思う。
自分とは違ういきものなんだと。

罰を命じるよう願えば、彼は、お前がそれを望むのならと言った。

寵愛者に明確たる意を持って傷をつけたのならば、罪状は一つのはずだった。
しかし彼はそれを強く望まなかったらしく、むしろを可能な限り刑を軽くすることさえ進言したと聞いた。

そうして自分は城を出た。

はっきりとした目標も無く王城に登り、励み悩みながら、毎日を過ごしていた。
進んでいるのか、足踏みをしているのか、自分がどんな道に立っているのか、わからなくなっていた。

そこに彼が現れた。
その存在は、自分の中にひどく大きく居座った。
何かに執着したのはここへ来てから久しぶりだった。

手が届かないいきものなのに、自分の意の通りにしたかった。
壊してしまいたかった。
当たり前のように叶わない。

ろくな当てもなく歩きながら、自分は未だ、通じる道を知らないままだと思っていた。

自分が彼に向けた感情は、彼から思う通りに返ってこなかった。
心に穴が開いたようだった。

合わない歯車は軋んだ音を立てたあと、砕けることもなく、そのままゆっくりと停止した。